漆芸家・辻孝史 プロフィール

一貫してオリーブをモチーフに

「もっと技術を磨いて、もっと人間性も磨かなければならない」と話す辻孝史=高松市鶴市町の工房で撮影  赤や黄緑色の実の質感、弾力、重みまでが伝わり、風にそよぐ葉音も聞こえてきそうだ。「平和の象徴」とされるオリーブを一貫してモチーフに使い、讃岐漆芸の存清(ぞんせい)と蒔絵(まきえ)を組み合わせた技法で表してきた。すがすがしい自然の恵みの生命感までを描き出す写実力は、若手作家の中でもひと際、存在感を放っている。

人間国宝の太田儔(ひとし)2人目の弟子

 人間国宝の太田儔の2人目の弟子。20代半ばで日本伝統工芸展に初出品、初入選した作品が宮内庁買い上げになり、以降8回出品してすべて入選した。日本伝統漆芸展でも入選を重ね、県展や日本工芸会四国支部展では賞も受けている。出品するたびに成長の跡を見せ、気品に満ちた技と感性が洗練度を増している。

蒔絵の辻北陽斎のひ孫

 辻孝史は蒔絵の第2代辻北陽斎の孫にあたり、器物の内側への細やかな蒔絵を可能にした「逆さ蒔絵」の作家、辻照二の次男でもある。高松工芸高、富山の高岡短大を卒業。ところが帰郷して作家を目指し始めた時、背中を追いかけた父が病に侵された。その父が自らの死を見つめ、息子の弟子入りを懇願したのが太田だった。「あきらめないでこの仕事を続けていくことが僕の使命。それが父への恩返しになるし、母への孝行にもなる」。早くして他界した父に代わり、毎日深夜まで 働く母を見てそう思った。そして黙々と精進してきた漆の道で見つけた夢は、父が編み出した逆さ蒔絵と、師匠の太田が追究してきた籃胎(らんたい)を融合させることだ。

第56回 日本伝統工芸展入選

作品01  香川の漆芸界の次代を託されたとも言える今回の受賞に、「うれしいです。でもいただいたからには責任がある。もっと実力をつけて、全国展でも賞を取れる ようにならないと。もちろん人間性も磨かないと」。穏やかな口調ににじむひたむきな向上心。順調な進歩を支える強さが、愛らしいオリーブの絵の奥にある。

ー四国新聞掲載記事(2010年4月17日)から抜粋ー
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